08.屋上ランチでーと?
四時限目が終わって理科室から帰る途中、何故か私のお弁当を持ったサスケに強制連行された。
という事で、今日はサスケと二人、屋上でお昼を食べている。
僅かに白の差す青空は、時たま横切る小鳥の他に遮るものはなくて、普段の高所特有の吹き荒ぶ風も珍しく弱く、柔らかく肌を撫でた。
こんな日に屋上で食べるのは、なんだかピクニック気分で好きだ。
……が、私には、どうしても、どうしても納得いかないことがある。
「……あの、サスケ?」
「なんだ?」
「えっと、あのさ。これ…ちょっと、やめないかなあ…?」
これ、とは。今の私達の体勢の事である。
何故、何故私は、サスケに抱き抱えられながらご飯を食べているんだろうか。
「…?なにか不満か?」
「不満っていうか、ええと、ほら、ご飯食べにくいし…」
「なら俺が食べさせてやる」
「や、それはいいから」
「遠慮するな」
「うん、そういうことじゃなくてね?」
後ろから包むように抱きついて座るサスケは、何故かとてもご機嫌だ。
どうやら先日の弟発言がすこぶるお気に召さなかったようで、あれ以来サスケは何かと私の世話を焼きたがる。
私の箸を奪おうと伸びるサスケの手から箸を遠ざけながら、私は小さく溜め息をついた。
食べにくいっていうのもあるけど、何より私は、ただただこの体勢が恥ずかしいだけなんだよ。
そりゃあ昔はさ、よくこんな風にくっついてたけれども、流石にこの年になると…ね?
「もう子供じゃないんだからさぁ…」
「そんなこと分かってる。別にナマエが子供っぽいだなんて思ってないぜ?」
「いや、そういうことではなくてね…」
「いいからほら、口開けろ。あーん」
「……あーん」
いつの間にやら箸を奪われ、結局食べさせられている……流されすぎだよ、私。
ていうか私のご飯より、自分の食事に専念してほしい。
未だ一口しかかじられていないパンが君の膝の上で泣いているよ、多分。
口に入れられた卵焼きを咀嚼しながら、また軽く溜め息。
…うん、玉子焼き、美味しい。上手に出来てよかった。
そういえば、テマリ姉さん、もうお弁当食べてるかな?
お口に合ってればいいんだけどなあ。
続いて差し出された煮物の人参を口にして、私の作ったお弁当を持っていった先輩の事を考える。
高等部寮に来た初日に二人で決めたお部屋ルールのひとつとして、毎週月・水・金は私が、バド部の朝練がない火曜日はテマリ姉さんが、とお弁当を作る日を決めた。(因みに木曜日は購買デーである)
そして、今日が私の初弁当の日。
遠慮するテマリ姉さんを押し切って決めたとはいえ、やはり味は不安だ。
中学の三年間も同じように同室の子と交代で作ってたから、不味いってことはないと思うんだけど……ああ、でもやっぱりちょっと不安!
「ねえ、サスケ、これ食べてみてくれない?」
「ん?」
弁当箱の中の野菜炒めを指差して、サスケに食べるよう促す。
と、するりと私の右手に箸を握らされた。
……はいはい、私が食わせろってことね。
箸で摘まんだ野菜炒めを開いた口元に持っていけば、サスケは嬉しそうにそれをくわえた。
「味、どう?」
「ん……うまい」
「ほんと?辛くない?薄くない?」
「ああ。大丈夫だ」
ごくんとそれを飲み込んだサスケは、私を見下ろして、ぽんと頭に手を乗せる。
「料理、上手くなったな」
そう褒められて頭を撫でられると、恥ずかしながらもやっぱり嬉しい。
味にうるさいサスケが言うんだから、きっと大丈夫だ。よし、自信を持て、私。
「昔は、よくいろんなもの焦がしてたのにな」
「…いつの話してんのよ」
「いつって、確か小4の時だったか?調理実習で魚焦がしたり、俺の家で兄さんと菓子作った時も何故か真っ黒のバニラクッキーが…」
「ちょっ、わざわざ言わなくていいから!昔の話でしょ、昔の!」
だからすごく特訓したんですからね!
半ばムキになって吐き捨てるように言うと、サスケは悪い悪い、と笑いながらまた私の頭を撫でた。こいつ謝る気ないな。
「…そうだな、頑張ったんだな」
「そう、頑張ったんだよ」
「これなら、もう花嫁修業なんて要らないだろ」
「は、花嫁修業って…流石にそこまで上手くはなってないよ。ていうか、まだまだ花嫁になる予定もないし」
そもそも相手も居ないのに。
彼氏いない歴が年齢ですから、と少しおどけると、不意にサスケは私の隣に座って、向かい合うように私の体を寄せた。
「サスケ?」
「……俺は、兄さんと違って家を継ぐ訳じゃない。けど、兄さんと同じように海外留学もしたし、兄さんにも負けないように頑張ってきたつもりだ」
「…うん」
「木ノ葉でちゃんと勉強して、いずれは会社を継いだ兄さんを支えていきたいと思ってる。仕事は忙しくなるだろうけど、きっとナマエに不自由はさせない」
「?うん…?」
「だから、高校を卒業したら、俺と「ああああああああああっ!!!」
サスケの言葉を遮って、突然の叫び声が鳴り響く。
驚いて振り向けば、開け放たれた屋上の扉の前に、ナルトとデイダラが立っていた。
「ナマエ!やっと見付けたってばよ!」
「こんなとこに居たのか、うん!」
肩を揺らして息を整える二人は、どうやら今までずっと私を探していたらしい。
そういえば急にサスケに連れてこられたから、何も言わずに来たんだっけ。
「全然教室に戻ってこねーから、探したぞ!うん!」
「っつーか、サスケと一緒に居たのかよ!?」
ダッシュしてきて私に詰め寄るデイダラと、私を引ったくるように離してサスケに突っ掛かるナルト。
心配したんだからな、とぷりぷり怒るデイダラをなんとか宥めていると、隣がやけに静かな事に気付いた。
見れば、ぎゃいぎゃい文句を言っているナルトをよそに、サスケは俯いたまま微動だにしない。
流石に不審に思ったのかナルトとデイダラも黙り込み、三人で顔を見合わせる。
恐る恐る顔を覗き込んでみると、ぼそぼそと僅かに口が動いた。
「え?」
「………す」
「な、何?サス、」
「てめーらぶっ殺す!!」
「いきなり何言ってんの!?」
屋上ランチでーと?
(おいこら今すぐそこに並べ順番にぶん殴ってやる!!)
(ちょっと落ち着いてサスケェ!?)